とある夏、お盆休みで帰省した政治家に密着ロケをした際、
・・・ギブされてしまいました
あ、決してワイロな話ではありません
僕は彼の選挙区民ではないですから公職選挙法にもあたりません
最近は便宜を図ったとか裏献金とかアヤしいニュースが絶えませんが
報道関係への忖度もアリだった時代の昔のお話です
政治家の帰省
ある夏の日、大物政治家の密着取材をする事になりました
実名は伏せますが、その後、総理大臣になったお方です
名前は仮に「山田晴太郎」とでもしておきましょう
山田さんの故郷に到着する直前のタイミングで
彼が同乗する車に乗り込む事を許され、車内でカメラを向けました
はじめて乗った大物政治家のSP付き特別車両
緊張する僕とは対照的に、やたら自然体で嬉しそうにしている山田さん
固まっている僕を見越したのか、青々と育っている窓外の田んぼを眺めながら
「酒屋のさぁ、〇〇ちゃんとはよくここらへんで遊んだなぁ~」・・・
この一言で緊張がほぐれ、彼が僕にリアクションを求めているのが分かりました
さすが、政治家!
こんなたかだかカメラマンに対してもさすがの話術
僕「幼なじみなんですね?」
山田さん「ん~、ここらへんで泥だらけになってさぁ」
「よく一緒に雑魚すくいなんかして遊んだ奴なんだよ~」
「あいつも歳とったよなぁ」
彼にとっては単なる帰省・・
けれども、地元ではすでに凱旋する山田さんをお迎えする準備ができていて
お帰りなさい!のムードで町は盛り上がっていました
彼が車を降りて歩き出すと、そこここから気さくに声をかける人が続出!
しかも、そのスタンスが近所の立ち話レベル
当時、官房長官だった人に対してこの距離感!
やっぱ人の上に立つ人は違うわ
昔から地元と馴染んでて人望があったんだなぁこの人は・・
なんて思いながら撮影していたら、カメラを担いでる僕に近づいてきて
おばちゃんが「やまっちゃんはねぇ、おとなしくて口数も少ない子だったんだよ~」
「それがまさか・・ねぇ~!あっはっは!」なんて、
本人の肩叩きながら笑い出す始末・・
山田さんも一緒になって笑いはじめて、
もはやフツーのおっさんとおばちゃんの光景(笑)
農村で生まれ、政治家を志した時、
この町のみんなが応援してくれたんだそうです
だから恩返しをしたい、まずは故郷を盛り上げていきたい
山田さんはそう語っていました
根回しされた夕食
やがて夜になり、盆踊りに参加して地元の人たちと交流している彼を撮影し
宿へ戻った時の事・・
周囲には飲み食いできるお店もなく、
選択肢はその宿の中にある割烹居酒屋のみ
チェックインしてそれぞれスタッフがいったん自分の部屋に機材や荷物を置き
宿の居酒屋に集合して食事をしようと入った直後・・
女将さんらしき女性が飛んできて
「本日はお疲れ様でございました~」
「失礼ですが、〇〇テレビのご一行様でしょうか?」との問い・・
「へ?・・あ~はい、そ、そうですけど・・」
「な、何か?」と、聞こうとした寸前
女将さん「かしこまりました」と言ったきりくるりと厨房へ・・
この対応にはさすがに不審に思い、ディレクターに
「なんかしたの?」「宿になにか言った?」と唐変木な質問(*ノωノ)
ディレクターも「なんすかねぇ、俺、何も言ってないっすよ」
は? じゃあ何で女将さんがこんな事聞いてきた?
と、別のスタッフが・・
「昼間、山田さんからどこに泊まるか聞かれましたよね」
え? はぁ? それが?
だって、宿教えたからってここで食事するとは言ってないし・・
謎が謎のまま、仲居さんがお手拭きやらを持ってきたので
「注文いいすか?」と晴れが言ったら、
仲居さんが「あ、ハイ!間もなくご用意しますので」・・って・・??
はぁ?
はぁ?
注文も聞かずに「用意する???」
なんだ?この店は?
うすら寒くなってきて、ざわざわしてたら
しばらくして女将さん再び登場
「こちら、山田晴太郎事務所からのお差し入れでございます」
って、・・・え~っ!!
女将さんが手にしていたのはなんと!、こ・越乃寒梅ですよ!
空の一升瓶でも当時は5千円で売れた幻の日本酒・・・
そして何も頼んでもいないのに次から次にご馳走がっ!!(*ノωノ)
はじめは何が何だか分からず、混乱もしたんだけど
よくよく考えてみたら、ここ以外には食事する場所がないんですよ
そこを読まれていたんだと、ようやく納得・・
すごい読み! そして根回し!
政治家の世界ってこうやって人脈とかを広げていくのか・・・
知らなかった世界をちょっとだけのぞき見した気分でした・・
さらなる根回し
すっかりご馳走される形になってしまいましたが
彼の根回しはこれで終わりじゃありませんでした
食事を終えて部屋に戻ったら、スタンドの明かりのカウンターの上に何かある!
それはチェックインした時にはあきらかになかったもの
おしゃれなバスケットに高級そうな果物の詰め合わせがあったんです
よく見たらフルーツの中にメモ書きのような紙・・
「本日はお暑い中、お疲れ様でございました」
「明日もよろしくお願いいたします」「山田晴太郎事務所」
・・・これ、僕たちが食事している間、
宿の中居さんがこそっと置いていったに違いありません
いやはやビックリするやら感心するやら・・
あとで思い出して考えてみたら、日本酒にご馳走にフルーツ
どれも断れる状況にないやり方だったんですよね
食事に関しては、女将さんに断ったところで女将さんとしても
立場があって困ってしまう
フルーツも誰もいないところに置いてあった
もはや「いらない」とも言えず、誰に返していいものかも分からない・・
なんといううまいやり方!
翌日、山田さん密着のため再び実家へお邪魔した際
こちらから昨夜のお礼を言ったら、
山田さん「え?・・あ~そうでしたか」
「きっとウチの誰かがやったんでしょう」
「それより風呂はどうでしたか?」
なんて、地元の風呂と宿のよさを自慢げに話しはじめ・・
ここでもまた話題をそらす上手い話術にまかれてしまいました
政治の世界で長年揉まれてやってきただけあります
う~ん・・
政治家の根回しってやっぱりスゴい!
周囲に関わる人間の先を読み、断れないギブをして取り込んでいく
これにはもちろん資金力っていうのがあるんでしょうけど
その人柄と話術には大いに学ぶべきところがありました